専門メーカーが配慮する                エキスパンションジョイントの    基礎知識 01

基本情報 設計

はじめに

エキスパンションジョイントは、長期的に建物を守るための建材です。しかし、皮肉にもそれ自体が大きく損傷する事例がこれまでに数多く報告されています。特に免震建物は、生命や財産を守るために追加コストをかけているにも関わらずエキスパンションジョイントがマイナス要素になってしまうことが浮き彫りになっています。

その一方で設計者と施工者がメーカーと製品を正しく検証されている建物は、大きな被害が発生していません

私達は日本で唯一の専門メーカーとして40年以上もエキスパンションジョイントに携わってきました。これまでの経験を踏まえて、これから建築される設計者や施工者の皆様がエキスパンションジョイントでトラブルにならないように、重要ポイントをお伝えさせていただきます。

エキスパンションジョイントの始まりとこれまで

エキスパンションジョイント(Expansion Joint)は、その言語の通り欧米で1970年代に開発された建材です。そして、その後日本に広がりました。エキスパンションとは「膨張」・「拡大」という意味ですが、構造体の膨張による悪影響をふせぐジョイント材として日本では「伸縮継手」とも呼ばれています。

膨張による悪影響とは、長期的に建物が損傷してしまうことです。多くの建物はコンクリートと鋼材の組み合わせでつくられた構造体で支えられています。これらの素材は、季節や昼夜の温度差で膨張や収縮を繰り返します。長い年月が経過すると壁・床にひび割れが生じ、建物の寿命に大きな影響を及ぼすことになります。

これを予防するため欧米では1~2インチ(25~50ミリ)のクリアランス(すき間)を床や壁などにあらかじめ設け、それを金属のカバーでふさぐ技術が考案されました。これがエキスパンションジョイントの起源とされています。

米国製エキスパンションの製品イメージ

■日本におけるエキスパンションジョイント

日本でも同様に温度差が発生しますので、構造体の膨張に対する予防策として効果があります。しかし、欧米の思想のままでは大きな問題がありました。なぜならば、日本は火山列島上に国土があり、4つの大きな地盤プレートがせめぎ合う中心に位置しています。

主に東北や北陸に地震が集中しているため、その他のエリアは大丈夫であるかのように錯覚しがちですが、1995年の兵庫県南部地震、2016年の熊本地震、2018年の北海道胆振東部地震を例に上げるまでもなく、日本全国で震度7レベルの地震が発生するリスクがあります。

そして、地震による建物の変異は膨張による動きよりも大きく、その瞬間スピードは数十倍にもなります。したがって、日本では地震に対応するためにさらなる進化が必要でした。実際、日本では欧米同様の製品では数々の地震で大きく損傷する事例が多発しました。

日本近海の大陸プレートと発生地震
地震による建物の損傷事例

■エキスパンションジョイントは地震に対応すべきか否か?

実は欧米でも地震対応型のジョイント材はサイズミックジョイント(Seismic Joint)という呼称で、エキスパンションジョイントとは異なる分類をしているケースがあります。当社も創業時からまさに「地震対応型エキスパンションジョイント」の開発に取り組み、「地震でも壊れない」ことを目指してきました。

一方で、当時の基準ではクリアランスが小さいこともあり安全性よりも規格化(低価格化)が重要視されていました。設計クリアランスの30~60%程度の可動量が選定されることもあり、メーカーからも「エキスパンションジョイントは壊れるもの。壊れたら取り替えれば良い」という風潮が生まれた時期でもあります。このように、当初は地震対応型と非対応型のエキスパンションジョイントが混在する状態でした。

そして、残念ながらこのような考え方は今でも一部に残っています。例えば2016年の熊本地震ではエキスパンションジョイントが損傷した事例に対して、「壊れているのは(エキスパンションジョイントの)機能を果たしているのだから問題ない」という建築関係者の見解がニュースとして広く拡散されていました。

しかし、お施主様やユーザーがそのような前提を理解や納得をしていることはほとんどありません。
多くの方が他の選択肢を知らされておらず、損傷しても「天災だからやむを得ない」ということで、追加費用で補修されているケースが大半です。

地震を想定していないエキスパンションジョイントの損傷事例

また、当社が2015年に実施した耐用年数に関するアンケート結果からもお施主様の考えが浮き彫りになっています。

お施主様とお施主様の考えを把握されている設計者133名に、「(天災等も考慮して)建物の耐用年数は何年以上が望ましいと考えますか?」と伺ったところ、7割以上の方が30年以上の耐用年数を求められていました。(中には「50年以上」、「半永久的」という方もいらっしゃいました)

一方で、エキスパンションジョイントは2年の瑕疵担保責任しか問われないため、多くのメーカーがそれに準じて長期の耐用年数を想定しない製品をリリースしています。

設計者や施工者の皆様には、ここにお施主様とメーカーの考え方には大きなギャップがあることを是非ご理解いただきたいと考えています。
当社はこれらに対して、独自の10年保証をご提供させていただいています)

求める耐用年数10年20年30年以上
回答者数16名23名94名
比率12%17%71%
「求める耐用年数」のアンケート結果

■自然災害によって注目されるエキスパンションジョイントの重要性

未だに根強く残る「エキスパンションジョイントは壊れてもよい」という見解ですが、これまでに何度も大きく転換する起点がありました。その最初の起点が1978年に発生した宮城沖地震です。

仙台市を襲ったマグニチュード7.4(震度5)の地震は、死者16人、重軽傷者10,119人、住家の全半壊が4,385戸、一部損壊が86,010戸という大きな被害をもたらしました。

この地震の教訓によって、1981年6月から新耐震基準が施行されました。新基準は「震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7に達する程度の大規模地震でも倒壊は免れる(安全を確保する)」という2021年の現在でも基準とされている耐震基準を義務付ける改正が行われました。

エキスパンションジョイントもこれまで以上に建物の揺れを考慮し、接続部は高さの1/100のクリアランスを確保するという基準が盛り込まれました。これに伴ってエキスパンションジョイントは、大可動に対応する製品が必要になりました。

そして、1995年の阪神大震災では都市部の直下型地震としては過去最大クラスで、建物や人命に甚大な被害をもたらしました。これらは建築業界において非常に大きな転換点となり、日本ではより安全な免震構造が強く求められるようになりました。エキスパンションジョイントも、可動性能を大きくするだけでなく、安全性、耐久性なども強く求められるようになりました。しかし、それでもなお安全性に対する検証がなされていない製品が大量にあふれていました。

それがあらわになったのが2011年の東日本大震災です。津波による被害が大半ではあったものの、東北だけでなく関東も大きく揺れた巨大地震は、多くの建物に損傷をもたらしました。そして本来であればこのような大地震に対応するはずの免震建物もエキスパンションジョイントが大きく損傷する事例が報告されました。その事実は2012年1月26日に発刊された全国紙の朝刊の一面にも掲載されました。

大きく損傷した事例のほとんどが「事前に可動検証をしていなかった」という驚くべき事実も明らかになりました。

2012年1月26日 全国紙朝刊の一面

このように、エキスパンションジョイントは本来は建物を守るはずの建材で、震災のたびに進化しているはずなのですが、未だにそれ自体が損傷してしまうという問題を抱えています。一方で設計者と施工者がメーカーと製品を正しく検証・選定されている建物は、大きな被害が発生していません。いかに、設計者、施工者の皆様が正しく選別することが大切なのかを示している、重要な事実と考えています。

そして、地震以外にも考慮すべき重要な機能があります。

その他に求められるエキスパンションジョイントの重要機能は?

■大型暴風雨に耐える防水性能

エキスパンションジョイントが地震に対応する重要性をお伝えしましたが、日本ではもう一つ大きな影響を考慮する必要があります。それが雨仕舞い(防水性能)です。

地震に対応する可動性能を満たしつつ、できるだけ設置幅を小さくするためには、可動域を確保しながら複数のパネルを重ね合わせる必要があります。そのすき間から雨水が侵入しやすいために、ゴムシートなどで止水ラインを設けることが一般的になりつつあります。しかし、材質的に強度も弱く、経年劣化しやすいゴムを第一次止水ラインとして考慮するのは大変危険であると言わざるを得ません。

御存知の通り、日本は毎年台風の被害が発生します。特に近年ではゲリラ豪雨も含め、多くの水害が発生しています。大きな地震は10年単位の大きなタイムスパンで発生しますが、台風はもはや日常的な天災です。このことからも、高い防水性能はエキスパンションジョイントの通常時の必須機能として満たす必要があるのではないでしょうか。

これらに対しては、ゴムを第一次止水ラインにするのではなく、最前線である金属パネルの密着性で止水ラインをつくりだすことが重要になります。一方でパネルの密着性を高めると、摩擦によって可動性能が低下し損傷するリスクが高まります。しかし、充分な検証がなされている製品と施工精度を満たせば防水性能が高いエキスパンションジョイントを実現することは十分可能です。

ですから、設計者の皆様が妥協すること無く、防水性能を満たすエキスパンションジョイントをお選びいただけるようにすることがメーカーの使命だと考えています。

防水性能の実物試験(全体)
防水性能の実物試験(拡大)

■防火区画を実現する耐火性能

クリアランス間には、頑丈な壁もスラブも存在しないため、防火区画内のエキスパンションジョイントは、それ単体で耐火性能を発揮する必要があります。

まず、カバーの素材についてですが、アルミの融点は600度前後です。それに対し、ステンレスの融点は1400~1500度で2倍以上の温度にならないと溶解しません。

このことからも防火区画ではステンレス材のカバーを使用することが重要になります。ただし、溶解はしにくいものの熱は伝わりやすいので、熱伝導を下げるためにはさらなる耐火材が必要になります。

ところが、エキスパンションジョイントは主要構造部ではないため、いわゆる耐火評定・認定の基準が定められていません。耐火材としては「耐火帯」と呼ばれるものが一般的に使用されていますが、メーカー各社の独自試験によってその安全性を確認したものを、設計者が選定・判断しているのが実情です。

そして、一般的なメーカーでは、エキスパンションジョイントは主要構造部ではないため、建築基準法施行令 第129条の2の5第1項第7号を根拠に「1時間の遮炎性能」で充分であると主張しています。

しかし、これらの法令は給水管等の設備配管を想定した法令であり、必ずしもエキスパンションジョイントが該当するとは言い切れません。なぜなら、エキスパンションジョイントは、実質的に床や壁の機能として主要構造体に接続されており、耐火性能を満たさなければならない面積は設備配管とは比べ物になりません。

この件に対して、国土交通省 住宅局建築指導課に問い合わせたところ「メーカーがどのような主張をしようとも、解釈の幅がある内容について最終的には各所の特定行政庁の判断による」とのことでした。実際、当社の案件においても可動量(設置幅)が大きい箇所では「1時間の遮熱および遮炎性能」を求める行政指導がありました。

したがって、エキスパンションジョイントは「1時間の遮炎性能」で充分であるという見解は、適切とは言い切れません。

また、耐火試験も小さいサイズで検証すれば、遮炎、遮熱の負荷が小さくなるため、その結果が全てに適用されるとは限りません。実際の設置幅と同等のサイズで検証された試験なのかは、正しくチェックする必要があります。

当社は、幅広のサイズで1時間耐火、2時間耐火、いずれの耐火試験も実施しています。「タイカマット(※商標登録済)」という当社独自の耐火帯は、数々の防火区画で安心してご利用頂いています。

幅広サイズの耐火試験(試験前)
幅広サイズの耐火試験(試験後)

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